-クリストファー・プリースト『奇術師』

映画館で『プレステージ』の予告編を見る。奇術が好きなわけでもないし、それどころか、テレビでマジックショーなんかをやっていても、「テレビなんだから、どうとでも細工できるよね」と冷めた目でしか見られないので、全くといっていいほど見ない。

なのに、なぜかこの映画が気になって、帰ってからネットで調べてみると、原作があることがわかる。

1995年の作品。「世界幻想文学大賞受賞の幻想巨編」。

「幻想小説って、どういう分野なの?」と思いながら読み始める。

想像力が必要とされる作品。19世紀末から20世紀初頭のイギリスが主な舞台。『瞬間移動』するイリュージョンを演目にしている二人の奇術師、アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャの確執が描かれている。

カードトリックからイリュージョンまで、演目の内容、『瞬間移動』のための装置・・・詳細に描かれているものを想像するのは楽しいんだけど、「実際にはどういうものなの?」とビジュアルで見てみたい衝動にかられる作品なのだ。

大部分がアルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャ、そして、エンジャの子孫となるケイトという女性の手記で構成されている。

どこまでが真実かわからない二人の奇術師の、それぞれの立場から書かれた手記を読みながら、読者も惑わされるという手法。解説によると、原題の"prestige"という言葉は、もとは「幻惑、奇術・・・」という意味から転化して、「名声、威光」として用いられるようになったとか。ルビを振った状態でいくつかの言葉に訳されていて、すごく深い意味がある言葉として使われているらしい。

イリュージョンのしかけは? ラストは?・・・という謎解きよりも、独特の雰囲気に浸れるおもしろい小説だった。

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