-皆川博子『猫舌男爵』

『水葬楽』『猫舌男爵』『オムレツ少年の儀式』『睡蓮』『太陽馬』の5編からなる短編集。図書館で借りた本なので、「時間がなければ一つか二つ適当な作品だけ読むか」と思っていたのだけど、読み出したら実にすんなりと読めてしまった。

三編の幻想小説の合間に、『猫舌男爵』と『睡蓮』という手紙や日記で構成された雰囲気の違う作品を挟むことで、この人独特の幻想的な世界に放り込まれたかと思うと、別の世界で気分転換をして、さらに次の世界へ行くという感じで、読みやすかったのだと思う。

中でも、表題作の『猫舌男爵』の読後感がすっきりしていてよかった。東欧を思わせるどこかの国に住む主人公の学生が、古本屋で見つけたヤマダ・フタロという日本の作家が書いた作品の英訳本を読み、日本文学にのめり込む。そして、ハリガヴォ・ナミコの短編集『猫舌男爵』を自国語に翻訳し、そのあとがきを読んだ人々にさまざまな騒動が起こる。

実は日本語をよく理解していない主人公が、とんでもない解釈をするのもおもしろいし、それを読んだ人々のちょっと的外れな反応も楽しい。拷問の話が出てきたときには、「またずるずるとこういう世界に入っていくのか」とドキドキしたけど、どんどん予想外の方向へ話が進んでいく。ドタバタ劇にもなりそうな内容なのに、大笑いするというのではなく、ひとりニヤニヤしながら読んでしまうような作品かな。『猫舌男爵』という本が本当にあるのなら、是非読んでみたいもんだ。

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