この国家は連続殺人の存在を認めない。ゆえに犯人は自由に殺しつづける――。 スターリン体制下のソ連。 国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。 だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。 そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた……。 読み始めてすぐに、たまたまネットで、リドリー・スコット監督で映画化が決まったことを知る。 「じゃあ、主役のレオは、『L.A.コンフィデンシャル』のラッセル・クロウか?」、「いや、でも、ロシア人だぞ」、「悪役のワシーリーは・・・」と、ついついキャスティングをしたくなる。 主要人物はもちろん、端役ともいえる人物でさえ、人物描写が巧みで、印象に残る。 上巻は、スターリン体制下の特殊な社会、その中で生きる登場人物の心理が細かく書き込まれている。ほとんどの人物に対して、「そうだよな、この状況で生きていたら、そういう考えになるかも」と、妙に共感しながら読める。すでに、陰惨な殺人事件も起こっているんだけど、上巻の段階では心理描写を中心に読み進められたので、一気に読む。 ところが、下巻。展開がおもしろくないわけではないのだけど、これも巧みな情景描写からイメージされる状況が、ますます辛くなってきて、読むスピードが落ちる。 「映画化されたら見るぞ!」という気分がすっかり冷めて、「自分の頭の中のイメージだけでもう十分」という状態に。 全体として、すごくよくまとまった作品・・・というよりも、結末に向かってやや強引にまとめられた作品。どうしてもすっきりしないのは、犯人の人物造形・・・。この人の殺人の動機には、さすがに全く共感できない。 《2009.1.30読了》《2009.2.6記》 |