• 島田 荘司 著『溺れる人魚』

『溺れる人魚』、『人魚兵器』、『耳の光る児』、『海と毒薬』の4篇からなる最新短編集。

元天才水泳選手アディーノ・シルバは、ある医師の手術により、泳げなくなり、人間らしい感情もほとんど持たなくなる。三十年近くも経って彼女が自殺。離れた場所で医師も殺され、同じ時間に同じ拳銃が使われていた。その謎を解くミステリーの形を取りながら、その謎よりもアディーノの手術に関わる医学的な内容が読んでいて辛い話。

事件が起こるのが、六月十二日、港町リスボンの年に一度の大祭、聖アントニオの前夜祭。「もともとは土地の漁師たちが大漁を願って行った祈願祭がルーツになっていて、したがってこの夜は、リスボンの漁師たちの代表的な獲物、イワシを塩焼きにしてみなで食す。」

そうなんだ!実は、もう何年も前に、スペインに入る前にリスボンにほんの少しだけ立ち寄ったことがあるのだ。たまたま入ったお店で、友人と二人でよくわからないまま魚料理を頼んだら、山盛りのイワシの塩焼きが出てきた。しかも、一人一皿!それも大きめのイワシで、「こんなにたくさん食べられない!一皿だけ頼んだはず」と抗議したのに聞き入れられず。でも、これがものすごくおいしかった!ほんのりと塩味で脂がよくのっていて、最初こそフォークとナイフで丸ままの魚を食べるのにてこずったものの、何匹も食べていると慣れてくる。「こうなったら食べつくしてやる!」と、友人と二人で意地で完食。それ以来、「リスボンの人は大のイワシ好き。いつも山のようにイワシを食べている」のイメージが定着していたんだけど、行ったのは6月。このお祭りの頃?「ちょうどみんなしてイワシを食べる時に行っただけなのかも」と思い当たる。いつも山盛り食べているというのは、大きな勘違いだったのかも・・・。

さて、『人魚兵器』は、ナチによる地下建造施設で見つかった奇妙な形の「骨だけの死骸」にまつわる謎を、キヨシが解き明かしていく話。

『耳の光る児』は、ロシアやアジアの各地で紫外線を当てると耳の光る赤児が四人生まれた・・・その原因を探るために、中央アジアの歴史にまで遡っていくという壮大な話。

『海と毒薬』は、「石岡先生」が「御手洗君」に宛てた手紙と、一読者の女性が「石岡先生」に宛てた手紙。『異邦の騎士』に絡む話で、もうすっかり本の内容を忘れているから、「うん?」と思うところは多かったものの、それはそれとして、最後まで読むと、この本の締めくくりとしてこの短篇を持ってきたかった理由がわかるようなお話。・・・喫茶店の砂糖壷は絶対使わないでおこう。

全く異なる内容なのに、一冊の本としてまとまっている印象。

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Last-modified: 2006-10-20 (金) 19:50:08 (6396d)