• 皆川博子著『総統の子ら』

しんどかった。内容もそうだし、ハードカバー、二段組で600ページを超す文章を読むのもしんどかった。

1934年、第1次大戦の敗戦国ドイツは、ヒトラー総統の下、強いドイツを作りあげようと軍事力増強に努めていた。国家の最高エリートを養成する士官学校「NAPOLA(ナポラ)」を受験するため、港町キールから列車での長旅をするカールは、車内で同じ受験生のエルヴィンに出会う。物語は、この二人と、ナポラで教官として指導もするSS将校へルマン(エルヴィンの従兄)を中心として進む。

受験課題に挑む受験生達の奮闘振りや、全寮制のナポラでの少年達の日常やさまざまな葛藤はそれなりに興味深く読めたんだけど、卒業後カールが武装SSの一員として戦地に赴くあたりからが辛かった。

作者はどれだけ膨大な量の資料を参考にされたんだろうと感嘆しながらも、細かな戦況が延々と書かれているのも、カールをはじめとした武装SS隊員達が、使命感に燃え、それこそ命がけの闘いを挑んでいるのを読むのも、敗戦という結果を知っているだけに辛かった。

ドイツと周辺諸国との関係やパルチザン、赤化したロシアのボリシェビキ、ユダヤ人など、ナチス政権下のドイツを、総統の思想を信じて生きるカールやヘルマンの視点で描かれていて、特別行動隊でユダヤ人の大量殺害をしていたヘルマンでさえ、理想と信念のもとに行動する青年として描かれている。敗戦後非難しかされなかったドイツ側だけでなく、裁く側に立った戦勝国側にも非難されるべき行動が多く、勝者の視点だけで語られる歴史に対する危うさがこの小説で言いたかったことの一つなように感じられた。

目障りなのに、気になって仕方がなかったのが、カールのキール時代からの知り合いであるマックスの存在。その後、ヘルマンの従卒になり、ヘルマンに執拗につきまとう。「一体、何がしたいのさ」とずっといらいらしていたのに、結局最後までどうしたいのかよく理解できない存在だった。

  • 今日の角川文庫の新聞広告に『続・わが闘争 生存圏と領土問題』が出ていた。『わが闘争』は何度か読みかけたのに、全然先に進めなかった。SS将校のヘルマンでさえ全部は読めなかったということだし、私が読めないのは当然だよねy-sweat -- Gecko 2004-07-26 (月) 19:26:34
  • 確かに、読むのが辛い本でしたよね・・・。少年時代の話はともあれ、それぞれが戦線に出てからの写実的な描写に、「これ、本当に皆川さんの作品?」と思ってしまうほどでした(^^;)。 マックスの存在は、Geckoさんのおっしゃる通り、私もイライラ(爆)。結局、カールが好きなのか、嫌いなのか、それとも何か含むところがあるんかいな、って感じでねぇ。それと、もっと登場するんじゃないかと期待していたのに、出てこなくなってしまったのが「寝袋の天使」。いずれにせよ、物語の前半と後半とで、雰囲気がかなり違いましたよね・・・。読んだ後、もやもやしてました。 -- 2004-07-27 (火) 11:40:56
  • 中途半端な感想でしたね。図書館の返却期限が迫っていて、後半大急ぎで読んでしまったので、内容を咀嚼できていないですy-sweat。そういえば、「寝袋の天使」、来るかな来るかなとラストまで期待していたのに、あれって感じでしたね。読み応えのある力作でした。読み終わって、やれやれと思う半面、身近にいたカールやヘルマンが急にいなくなったようで、さびしかったのでした。現実には、そばにいてほしい相手でもないのですが(笑)。 -- Gecko 2004-07-27 (火) 19:29:02

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Last-modified: 2004-07-27 (火) 19:29:02 (7206d)